・・・司法書士試験筆記試験合格発表の日・・・
令和4年10月11日午後4時、東京法務局掲示板前
法務局の職員が時計を確認し、司法書士試験の合格者一覧を貼り出す。静寂のあと、目の前で歓声が上がり始める。自分も、はやる気持ちを抑えて掲示板に近づく。しかし、いざ掲示板を前にすると見るのが怖い。心臓が張り裂けそうになる。それでも番号に目を移していくと、自分の番号がぱっと目に飛び込んできた。あった!!
長い長い受験生活が終わった瞬間だった。※1
私は裁判所書記官として働きながら受験を続けてきました。働きながらとはいえ、合格までに10回も受験しています。そのため、受験生としては落第生なのは重々承知しています。短期合格を目指している方にはあまり参考にならないと思いますが反面教師としてしただき、また、受験を長く続けている方には何かのヒントや励みになれば嬉しく思います。
そもそも司法書士試験とは
司法書士になるための試験ですが、受験資格は一切なく、誰でも受けられる開かれた試験です。
近年の合格率は4~5%です。これだけを見ると厳しい数字に見えますが、記念受験の人も多いので、実質的な合格率はもっと高いです。
私が受験を始めた頃の合格率は3%程度でしたので、近年は合格しやすくなっていると言えます。
試験科目は11科目と多いです。全て法律科目です。
知識のひとつひとつはそれほど難しいものではないのですが、問題なのは、その量の多さと細かさです。膨大な知識を細かいところまで正確に覚える必要があります。頭の良さというよりは、地道に努力できるかどうかが重要だと思います。
試験日は毎年7月第一日曜日です(正確なところは、受験年度の受験案内をご確認ください。)。
・午前択一35問(2時間)
・午後択一35問、記述式2問(あわせて3時間)
で1日で終わります。
司法書士試験で最も怖いものに基準点という存在があります。いわゆる足切点です。
年によって変動はありますが、例年
1.午前択一は35問中27問前後
2.午後択一は35問中24問前後
3.記述式は70点満点中35点前後 ※2
が基準点となることが多いです。
択一は、最低でも70~80%の得点を取る必要があるわけです。
この基準点に一つでも達しないものがあると、それだけで不合格となってしまうのが怖いところです。総合点では、十分合格点に達していても、記述式が0.5点足りなければ、それだけで不合格となってしまうのです。
さらに、合格するためには、3つの基準点を全てクリアしたうえで、さらにプラスして、必要な上乗せ点を取らないといけません。
上乗せ点は、択一、記述のどこで取ってもよいですが、不確定要素の多い記述式で取るよりも、択一で取り切ってしまう方がよいというのが受験界の定説でした。※3
そして、択一で上乗せ点を全て取り切れる点数のことを、いわゆる逃切り点といいます。具体的には、35問中、午前、午後とも30問以上取れていれば大丈夫です(※3)。とは言え、逃切り点を取るのは、そう簡単なことではありません。
最後にもう一つ、司法書士試験で怖いものに、不動産登記法の記述式でのいわゆる枠ズレがあります。枠ズレとは、ざっくり言ってしまうと、解答欄がズレることです。解答欄がズレるとその後の解答が全て0点になってしまうことが多く、すなわち大量失点につながります。
司法書士受験生は、このような過酷な試験の合格を目指し、7月第一日曜日の試験に向けて日々勉強しています。4月から試験日までの3か月をいわゆる直前期と言うのですが、合格レベルの受験生ともなると使える時間はほぼ全て勉強に費やすようになります。毎週、予備校の答練や模試なども行われるようになり、受験界全体が熱くなります。
受験勉強開始
平成23年暮れ、私は司法書士試験受験を決意し、意気揚々と予備校(LEC)の通信講座を申し込みました。15か月で合格を目指すコースです。講義は仕事から帰って食事をしてから聴きました。担当の荻原講師の説明はとても歯切れがよく、また具体例も豊富で分かりやすかったため、楽しく勉強することができました。
ただ、仕事をしながらですと、どうしても合格に必要な知識を確実にするには時間が足りませんでした(※4)。1回目(平成25年)と2回目(平成26年)の試験は、午前択一・午後択一とも20問程度しか取れませんでした。基準点には2~8問届いていません。合格するにはまだまだ実力が足りないレベルでした。
そして、3回目(平成27年)の試験。この年は午前択一が非常に易しい年だったこともあり30問取れました。午後択一は22問でした。午前択一が基準点ちょうど、午後択一が2問足りませんでした。しかし、3回目の受験にして片方でも基準点に届いたことが、当時の私は本当に嬉しかったです(そこで満足してはいけないのですが)。
4回目(平成28年)は、午前択一26問、午後択一23問。午前は基準点を超えましたが、午後が1問足りませんでした。
このあたりで、もし択一を突破して、記述式の採点を受けていたら、その後の道のりも変わっていたかもしれません。この頃は、択一のことばかり考えており、記述式対策が完全に疎かになっていました。もしもの話をしてもだめですけどね。
ところが、5回目(平成29年)の試験は、午前択一、午後択一とも大幅に基準点に届かず、大惨敗でした。
その理由として挙げられるのは、直前期の勉強スケジュールを誤るなどの理由もあったのですが、大きかったのは、頭の中が単なる知識の羅列になっていて、応用や推論ができず本試験に対応できない状態になっていたことです。
この年は、直前期に、制度趣旨や理由など考えず、テキストの知識をひたすら詰め込む勉強をしていました。しかし、制度趣旨や理由付けといった基礎となる支えがないため、本試験では少しひねられた問題が出題されると太刀打ちできませんでした。講義の印象が強い3,4回目までの受験では知識の理由付けがある程度頭に残っていましたので何とかなりましたが、5回目ともなると理由付けなどの大事な考え方の多くが抜けた状態になっていました。
なんとかしなければなりません。とは言え、私は基礎講座を受講して内容を理解した後は、予備校の講義を受けるつもりは全くありませんでした。
そこで私は、以前から気になっていたオートマシリーズにテキストを変えることにしました。そして、この選択は大正解でした。このテキストが私の運命を変えてくれたのです。
オートマは自分にとっては素晴らしすぎて、その良さは一言では説明できません。ですが、あえて一言で説明すれば、記憶に残りやすい素晴らしいテキストということになります。理由付けが忘れられなくなりますし、勉強時間の大幅な短縮にもつながりました。
6回目(平成30年)は、午後択一は基準点を超えたものの、今度は午前択一で足切りでした。しかし、この時期は、テキストをオートマに徐々に変えている過渡期でしたので、オートマをさらにやり込めば点数が伸びることを確信していました。
そして、予備校の模試でもある程度手応えを感じられるようになって臨んだ7回目(平成31年)の試験。この年は、午後択一が非常に難しい年でした。午前32問、午後23問正解。午後択一は冷や汗をかきましたが、初めて午前・午後ともに基準点を超えました。しかも、逃切り点が取れました。あとは、記述式で基準点さえ超えれば合格のはずでした。しかし、記述式対策を完全に疎かにしていた私は、不動産登記法の記述式で2か所枠ズレをして点数はほぼ0点で、総合点も全く足りず不合格となりました。
8回目(令和2年)と9回目(令和3年)は択一は突破しましたが、逃切り点までは取れず、記述式でも枠ズレをして不合格となりました。
この頃になると、予備校の模試でも、択一の予想基準点を割ることはなくなり、記述さえしっかり取れれば合格できると思っていました。ただ、模試でも本試験でもほぼ毎回、記述式は枠ズレをやらかしていました。
枠ズレに怯える日々は、その後、合格するまで続きました。
そして迎えた10回目(令和4年)の本試験。択一は、午前32問、午後31問、逃切り点が取れ、記述式も枠ズレすることなく、なんとか最終合格することができました。
働きながらの司法書士試験~司法書士になりたいという強い気持ち
私は公務員としてフルタイムで働いていたため勉強時間がなかなか取れませんでした。特に直前期は集中して勉強したいと思いましたが、長期休暇を取ることはできないのでもどかしい思いをしました。部署を異動すると、新しい仕事に慣れるまで気持ちも落ち着かず、少なからず勉強にも影響したと思います。試験直前や当日に当直が当たらないかも心配でした。
しかし、変えられないものは仕方がありません。通勤時間や昼休みなども利用して合格を目指して勉強を続けてきました。受験をやめようと思ったことは一度もありません。
私は、裁判所書記官として働く中で、目の前で困っている方に対して法的なアドバイスができないことにもどかしさを感じていました。具体的な法的なアドバイスをするために、絶対に司法書士になりたいと思いました。
これまでの受験生活を続けることができたのも、この絶対に司法書士になりたいという強い気持ちがあったからだと思います。
みなさんに感謝
勉強を始めたときに1歳だった息子は、合格した年には小学校6年生になりました。長い間、家族には迷惑をかけました。家族の協力なしにこの合格はありません。職場でも、試験直前に休暇を取った際には、みなさん快くフォローしてくださいました。両親は受験当初からずっと応援してくれました。ほかにも多くの方に応援していただきました。
本当に感謝の言葉しかありません。
ありがとうございました。
※1 この後、口述試験がありますが、気持ちとしては終わったと感じていました。
※2 令和6年度から、記述式の配点が2倍の140点満点になりました。
※3 同上。ですので状況は変わると思います。
※4 フルタイムで働きながらも、1回で合格する方はいます。その強靭な精神力と想像を超えた努力には頭が下がります。


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