裁判所書記官とは
裁判所書記官は、記録等の作成・保管、裁判官の行う法令や判例の調査の補助といった仕事をしています(裁判所法第60条)。代表的な例を挙げると、期日の前に弁護士や訴訟当事者等と連絡を取ったり打合せをしたりするなどして、円滑な訴訟進行のための準備をし、期日では法廷に立会って調書を作成するなどしています。
イメージのしやすいところで言いますと、テレビのニュース番組で法廷映像が流れることがありますが、そこで裁判官より一段低いところで黒い服を着て座っているのが書記官です。
書記官という職業は一般に馴染みがないためか、私が一般の方にこの話をしたとき、黒い服を着ているのは全員裁判官だと思っていたと言われたことがあります。
裁判手続には、大きく民事、刑事、家事、少年と4種類ありますが、以下、主に民事事件を扱う書記官についてのあるあるをまとめてみました。
裁判所書記官あるある
■話がくどくなる
裁判手続は説明に誤りがあってはいけません。書記官は、訴訟当事者に説明する際、できる限り正確に伝えようと努めます。特に訴訟当事者がご本人の場合はそうです。お話を伺うときも、伝えるときも、疑義が生じたり、意味の取り違えがないように細心の注意を払って説明をします。そのため話がくどくなりがちです。
私は、このクセが抜けないからか、普段の生活の中でも同じような話し方をしてしまいます。妻からは話し方が「バ○丁寧」と言われたりします。ただ、これは個人的な問題かもしれません。
■漢字に敏感に反応する
判決正本や和解調書正本などは、強制執行が可能となる重要な書面です。漢字一字の誤りが、後の手続に重大な影響を与えかねません。
ですので、書記官は「若」と「岩」、「齋」と「齊」などといった間違えやすい漢字を見ると敏感に反応しがちです。
■印鑑を押すのがうまくなる
口頭弁論期日呼出状、(判決や和解調書などの)正本認証用紙、口頭弁論調書など、書記官は日常的に印鑑を押しています。
特に、口頭弁論期日呼出状など、訴訟当事者に送る書面については、職印を美しく押すことにプロ意識を持っていたりします。朱色が均一に出るようにする、書記官名の最後の一字にうまく掛けるようにする、傾きがないようにするなどなど・・・
しかし、中にはダイナミックな押し方をする書記官も一定数います。
■終局した事件について問合せの電話がかかってくるとドキっとする
書記官としては、判決なり和解なりで事件が終局し、関係書類を訴訟当事者に送るとその事件については一段落します。しかし、そんな終局したばかりの事件について、訴訟当事者から問合せの電話がかかってくることがあります。判決正本や和解調書正本などは、強制執行が可能となる重要な書面ですので誤りがあってはいけません。電話口の向こうから開口一番「今日、和解調書が送られてきたんですけど・・・・」などと言われると一瞬ドキっとします。心臓に悪いです。
私の場合は、
「和解調書の「裁判官認印」欄に裁判官の印鑑が押してないですけど・・・」
とか、
「和解調書と一緒に送られてきた郵便切手が足りないですけど・・・」
といった問い合わせは何度かありました。
前者は、(当時は)そもそも問題のない事案ですし、後者は、郵便切手が2枚くっついていたとか、1枚が受け取った方の机の下に落ちていたなどが理由でした。
■本人訴訟で代理人がつくとホッとする
裁判は、弁護士や司法書士といった代理人を付けずに、ご本人でやることも可能です。そして、ご本人でも、しっかり訴訟行為を行う方もいらっしゃいます。
しかし、理由は様々ですが、書記官から見ていて、ご本人で訴訟を遂行するのは大変だろうなと思う事案も多くあります。代理人を選任するかどうかはご本人の自由ですので、書記官からご本人に対して代理人の選任を強要することはできません。もどかしいです。
そのような事案で、ある日突然、弁護士や司法書士から「事件を受任しました」という連絡があると正直ホッとします。そして、ご本人の場合は、訴訟資料を整理できていない場合が多いですので、代理人が裁判所に来て事件記録を閲覧・謄写(記録を見たり、コピーしたりすること)することが多いのですが、その場合、書記官は優しく接しがちです。
■郵便切手のことを「郵券」という
裁判所では、郵便切手のことを「郵券」と言います。私は司法書士になったばかりの頃は長年の習慣で普通に「郵券」と言っていました。ところが、あるとき地元の郵便局で「郵券ください」と言ったところ、郵便局員に「郵券って何ですか?」と聞かれてしまい、郵便局員でも「郵券」とは言わないのだと思いました(真相は分かりません。)。それ以来、郵便切手を買うときは、「郵便切手ください」と言うようにしています。
■尋問のことを「証拠調べ」という
法律的な話になってしまいますが、裁判上の「証拠調べ」には書証(契約書などの意味内容、又は文書そのもの)、検証(境界標の状況など)、尋問(=人証、法廷での証言)、鑑定(専門家による意見など)があります。中でも、実務上は書証が圧倒的に多いです。ですが、書記官が「証拠調べ」というときは、ほぼ間違いなく、証人尋問、本人尋問のことを指しています。
私は、当時の書記官研修所を卒業後、地裁の民事部に配属されたとき、まわりの書記官が当然のように「証拠調べ」を「尋問」の意味で使っていたのが大変印象に残っています。ところが、どの裁判所に異動しても、書記官はみなさん「証拠調べ」=「尋問」の意味で使っているので、そんな違和感もしだいになくなります。
理由としては、法廷での書証の取調べは、書記官的には日常的過ぎるのであえて意識はしませんが、証人尋問や本人尋問は書記官的には一大イベントであり、そのときの尋問だけではなく、後の尋問調書の作成の負担も大きいためと推測しています。
■速記ができるの?と聞かれる
書記官は速記はできません(速記官は別にいます。私が書記官に任官したときには、すでに速記官の新規養成を停止していたため、現在、速記官の数は非常に少なくなっています。)。
書記官は速記はできませんが、あらゆるテクニックを使って法廷で素早くメモを取っています。
かつては、証人尋問や本人尋問があると、書記官は証言の内容をメモに取って、そのメモをもとに尋問調書を作成していました。私が書記官になった当時は、その尋問調書の作成が書記官にとって大変な作業でした。素早くメモするテクニックは色々あり、略語を使用したり、字を小さく書いたり、数字や固有名詞だけは先にメモして、他の部分は後から付け足していくなど様々です。
現在では、地方裁判所においては多くの場合、録音反訳を利用した尋問調書が作成されています。また、簡易裁判所においても、実務上(裁判官の許可を得て)証人や本人などの法廷での陳述の結果については調書に記載することが省略されています(なお、証言の録音自体は書記官が保管・管理しています。)。ですので、書記官がメモから尋問調書を作成することは少なくなっています。
■ミスが許されない
書記官の仕事は、国民の権利に関わる重要なものですので、ミスがあった場合の影響は甚大なものとなります。
書記官も人間ですのでミスを100%なくすのは不可能です。しかし、書記官はミスは許されないものとして、重い責任感と緊張感を持って日々の事務処理にあたっています。

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